月と羽

満月の人よ

2012年9月22日〜30日紀伊國屋ホール

初日はセリフとかちょっと怪しいところがあったけれど、一週間たって2列目で見たら、非常にスムースでギャグも切れ味がよくて、面白くなっていました。なるしさんの顔芸を間近で見られてしまった☆

村井さん、戻ってきた奥さんのことが大好きなんですねえ。あんなにデレデレの村井さんは初めてかも。ニューヨークに行きたいもかわいいおじいちゃんだったし、I do!のマイケルも新婚の時のウキウキぶりはなかなかのものでしたが、今回みたいにののしられてもデレている村井さんって珍しいかも。かわいくてね〜、アハハ、ウフフみたいな感じでアツアツぶりにあてられっぱなしでした。

村井さん演じるトリモチ職人の達吉が奥さんに男と逃げられて27年、そこへひょっこり奥さんが戻ってきたり、息子の進介も妻に逃げられ、仕事は倒産して住む家もなくなって実家に帰ってきたり、居候になった満も男性を刺していたり、結構ドロドロした話だったりするんだけど、後味が悪くないのが不思議。笑いもカラッとして素直に楽しめる舞台。

帰ってきた母を許せないはずなのに、だんだんと母を受け入れていく進介の心情が、池田成志さんによってギャグも取り入れてうまく演じられていたし、あっけらかんと明るく、でも懐の深い暖かい母親早苗を岡本麗さんがパワフルに演じていました(この二人の顔芸が細かくて、見ていて楽しいのだ)。満も自殺しようとして来たらしいはかなげで繊細な感じがよく出ていて、なにより村井さんの、27年を寂しくすごして来た男の人生を感じさせる堂々とした田舎のおじいちゃんっぷりが、板についていて安定感と優しさがある。

天狗をあつく信仰しているのかと思いきや、屋根の上に天狗の扮装であがった村井さん、「天狗様を恨んだこともあった。もう誰も天狗様に連れて行ってほしくない、連れて行くなら自分を」と声高に語るところが印象的です。満の「私は誰からも愛されない。何をやってもうまくいかない」も心を打ちます。

村井さん、トリモチ職人をやめたらどうやって暮らしていくんだろう。でもまったりとした安堵感があるのですよね。村井さんが大地にしっかり根を張った生き方をしたおじいさんを演じきってる感じがするのです。村井さんがしっかりしているから、この舞台も安心して見ていられる、そんな気がします。

 

以下、上記から数日たってから書いた文。

 

満月の人よを見た方がネットで、妻の蒸発を天狗のせいにする達吉は弱いというようなことを書かれており、ずっと引っかかっていたのですが・・・

警察の機動力があまりなかった時代、人の蒸発や家出を神隠しや天狗が隠したとしたのは、人が人を思いやる優しさ、傷つけまいとする心からくるのではないでしょうか。6歳の息子・進介を傷つけたくないと思う達吉の親心だったのではないでしょうか。現実すべてを知ったうえで生きてきた達吉は優しくて、強いのではないかと思います。戻ってきた妻を受け入れる度量の広さと素直さもあります。

屋根の上で「天狗様を恨んだこともあった。もう誰も隠されなければいいと思った。もし誰かを連れて行くなら俺を」と言う達吉の言葉に感動するのは、それまで見せなかった達吉の本音、妻に去られて辛かったのだという告白でもあるからです。それを普段は言わないようにして、天狗様を敬愛している達吉の優しさと強さと明るさと懐の深さにぐっとくるのです。

一度壊れた家族が絆を取り戻すからほんわかしてくるんですよね。早苗が明るさと押しの強さで進介との距離を縮めていくのもとても良いです。最後に進介が母親を許して去るのもポイント高いです。

村井さん演じる日本の田舎のおじいちゃんなんて、もうそうそう拝めないだろうなあ。(12.10.3)

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