あずなの思いこみI do!トーク

第二幕

 

舞台の照明が暗い中、ピアノとドラムが「I do!I do!」「僕は妻を愛してる」をメドレーでジャズ風に演奏。明るくなると、舞台まん中のベッドにはパジャマ姿のアグネスとマイケルが仲良く並んでいます。マイケルは髪に白いものが増えて、一幕よりだいぶ年をとったように見えます。二人ともピカピカ光る紙で出来た三角の帽子をかぶり、アグネスがふざけて笛のおもちゃで居眠りしているマイケルを起こすと、マイケルが寝ぼけて「新年おめでとう!」

・・・ああ、大晦日の晩だったのですね!ベッドには風船が(しかも毎日色違いでした)結んであったり、気がつくと後ろのピアノの演奏者達もお揃いの帽子をかぶっています(^_^)。

M14「去年(こぞ)の雪今いずこ」

村井さんがおじさんぽく、でも気分よく歌いはじめたと思ったら、続く歌詞がこれですか〜。楽しいけれど深い・・・。
「いつのまにか二重アゴ。息子も今年で16才」
「昔は夜遊びしたけど、今じゃ10時にあくびが」
「ベルトの穴が増えた」
「娘がブラジャーを買った」

二人とも60才くらいになっています。二人ともしゃべり方といい動きといい本当に老けた感じ。一幕後半のとげとげした感じとは全然違って落ち着いたとてもいい雰囲気。時が過ぎるのはなんと早いものか、としっとりと歌い上げます。

一曲お相手願えませんか、と優しくアグネスに申し込むマイケル。二人でパジャマでダンス・・・なんだか、「僕は妻を愛してる」のパジャマダンスを思いだして、ジワリ。とてもカワイイ年配夫婦のパジャマダンス。

すると、目覚まし時計が鳴って新年を告げます。二人ともクラッカーを鳴らしたり笛を吹いたり鈴を鳴らしたりして新年を祝います。お祝いで散らかした部屋を見渡して、「さてと」と言う春風さんがナイス。後片付けをしなくては、ととたんに冷静になるアグネスの気持ちがよく現れた一言ですね。片付けた後、写真の入ったフォトフレームを大事そうに持って(観察したけれど、結局何の写真かわからなかった)、「去年の雪…」を歌いながら、昔に思いをはせてうたたねするアグネス。なんだか、幸せそうな春風さんの表情にほろりとします。

 

そこへマイケルがお酒のビンを持って入ってきます。息子の机の引き出しになんとバーボンのビンが隠してあったと言うのです!マイケルがバーボンを飲んでみるとなぜか中身は肝油。3年前息子が肝油を飲まずにこっそりこのビンに隠していたことが判明。ついにマイケルは怒って、夜遊びから帰ってきた息子をお仕置きしようと、剃刀用のなめし革を持って部屋を出て行きます。

ところが戻ってきたマイケルは様子が変。息子が自分のタキシードを着ていたのを見て「似合っていた」のがうれしかったのです。いつのまにか息子も大きくなったんだなと、成長を喜ぶマイケルの村井さん、父親の演技がたまらないです。ここはポイント高いです。

M14a「愛があふれる」

「朝 君の寝顔を見て 幸せをかみしめる」
「あなたの姿を胸に刻み付けて」
「若い日々は夢と消えても」
「このひとときは光がさして」
「あふれる愛」

二人で並んで座って、幸せそうに夫婦の愛を歌い上げます。なんて素敵なデュエットでしょう!昔のバージョンのI do!ではこの曲は一幕で歌われていましたが、二幕のここに持ってくるのは素晴しいと思います。一幕で歌うのとは意味合いが違います。「去年の雪…」の後に歌うと、30年一緒に暮らしてきた夫婦の絆の深さや愛の大きさや寛大さをひしひし感じます。これぞ名曲!村井さんも春風さんも声がよくのびて、とにかく聞かせます。名シーン。

 

M15「子供達が結婚したら」

いずれ子供達が結婚したら、子供達のことで頭を悩ますこともなくなる、と想像をめぐらす二人。朝寝坊や、読書、二度目のハネムーン・・・やりたいことがいっぱいあるなあと。しまいにはマイケルは中学生の時から大切にしまっていたというサックスを、アグネスはベッドの下からバイオリンを取出し、二人でちょっとへたくそな(^_^;)合奏をします。
「子供達が結婚したら二人で演奏会を開こう。早く結婚してくれないと世界で一番の年寄りのコンビになってしまう!」

二人ともめちゃくちゃ楽しそう。しかもこの時はまねでなくて、ちゃんと村井さんと春風さんがご自分で弾いていました。特に村井さん、1年前からサックスの練習をされていただけあって、音階が吹けているのはすごいと思いました。お二人ともわざとへたくそに弾いていらしたのでは(^_^)?しかも、楽ではこのシーンで伴奏が急にストップして、完璧に村井さんと春風さんの演奏オンリーになっていました。演奏の方々、やるなあ。にぎやかで文句なく楽しいシーンでした。

 

また舞台にはだれもいない。袖からマイケルの声。
「アグネス!どこだ?くそズボンは?」
「なあに、どならないで。もし縞の入ったズボンのことならハンガーにかかってるわ」
「ハンガー?どのハンガーだ?」
「モーニングの下」

反対の袖からアグネスの声が答えます。着替え途中のマイケルがモーニングのハンガーを持ってやってきます。また一幕の時と同じように喧嘩?と思いきや、ちょっと違う・・・でも明らかにマイケルはいらだっているようです。

M16「花嫁の父」

今日は娘の結婚式だったのです。いっちょうらのズボンすら「くそズボン」と言ってしまうマイケルの心境は複雑です。娘が選んだのは自分のような立派な一流の(?)男でなく、間抜けな男だったとぶつぶつ言いながら着替えています。結婚式を下らない儀式と言い、花婿の家族を猿に似ているとまで。しかも払いまでこちら持ちとは。

う〜ん、でも〜、もしかしたらアグネスの父親が、マイケルとアグネスの結婚式の朝にこれと同じ歌を歌っていたかもしれないと、マイケルは思ったことがあるのかな〜。

支度を整えたアグネスがちょっと涙ぐんでいます。大丈夫かとマイケルに聞かれて「大丈夫よ、今日はあたしの人生最良の日だもの」う〜、私ももらい泣きしそう・・・

教会での結婚式のシーン。舞台奥中央に、マイケルとアグネスの結婚式の時にあったものと同じステンドグラスが、美しく浮かび上がります。舞台には二人しかいないはずなのに、まるで彼らの向いている方向に、花嫁と花婿の後ろ姿が見えるようです。

式が終わり、どうやら新郎新婦が車に乗っていくのを見送るようです。2階や3階から見るとわかりますが、床に木漏れ日のような照明があたって、本当に外にいるような感じ。紙吹雪が舞う中、娘の車を見送るマイケルとアグネス。客席に向かう形で、車が見えなくなるまで手を振る二人。そのせいか、まるで観客の私達が手を振って見送られているような、そうして二人を置いていくような錯覚にとらわれて切なくなりました。身に覚えのある人はたまらなかったのではないでしょうか。そうでなくても、残される両親の姿に対面して私もぐっときました。

新婚の日にパジャマでダンスをしたり、倦怠期に激しく喧嘩して家出しかけたり、子供達がいつか結婚したら…なんてサックスを演奏していた二人が、いつの間にか立派な花嫁のお父さんとお母さんになっていたんですね。このシーンは、村井さんと春風さんがきちんと「親」としての彼らを演じ切れていないと、表面だけの薄っぺらなシーンに見えてしまいそうですが、娘を見送るお二人を見ていて本当に「親の顔」に見えました。

「子供達が結婚したら」を歌う二人。「これから自由になれる…」美しいけれどとても寂しい歌に聞こえます。同じメロディなのに、演奏の仕方や歌い方でこんなにも変わるのですね。村井さんと春風さんのデュエットが美しく、切なく心に響きます。舞台としても非常に大事なところですが、とても印象に残る好きなシーンです。

 

結婚式が終わって家に帰る二人。
「急にがらんとして世界最大の家になってしまったみたいだ」と淋しさを隠せないマイケル。どうも気持ちがすれ違ってしまってマイケルが他人のように見えはじめるアグネス。

M17「女ってなに?」

家を守り子供を育てあげ、その子供も巣立ったあと夫とも心が通じ合わなくなったとしたら・・・大人になれば色々なものを失ってしまうけれど、だからこそ女には恋が必要。ああ、なんて重い歌(>_<)。世の女性の多くが、思いっきりうなずいているのが見えるよう。

自立する決心を固めたアグネスがマイケルに言います。
「出て行くわ。いやなの。犬や猫みたいにストーブの陰で死んでいくなんて。私は生きたいの」
これ、名言…というか、かなりぐっさりきますね。男の人にはシンクロできない気持ちかも。
「一度だって私の為にドアをあけてくれたことはないし、いつだってタクシーには先に乗り込むし…」
レディーファーストの国でそれはヒドイよ、マイケル!
「私を見て。シワと結婚指輪と家事をまかなうために預かる小切手帳、それだけよ」

仕事を持ち、「自分」というものを持って生きていく夫に対して、自分にはこれだけしかないというアグネス。彼女の絶望感と焦りをこんなにも端的にセリフに表せるなんてすごいと思いました。夫をもはや愛していないと気づいてしまったからには、一緒にいることはできないとマイケルに告げます。

アグネスには気になる若い詩人がいました。その詩人のことでお互い気持ちをぶつけあう二人。
「この6か月君はいつもイライラしていて、僕は心配で原稿を1ページも書けなかった」
「僕には君が必要だ。僕を喜ばせたり、笑わせたり、時には僕をけなしてくれる君が。そんな君がいなくなったら僕にはもう書けない。青春の浜辺の浮浪者程度のものでさえ」
「放浪者。浮浪者じゃないわ」

二人に必要だったのは、お互いにじっくり話し合うことだったのですね。アグネスにとって、このマイケルの言葉がどんなに嬉しかったことか。泣き笑いするアグネス。春風さんうまい。マイケルが、気落ちしているアグネスの為に用意したプレゼントをあけて見せてくれます。

彼が読みたかった本、彼が好きなチョコレート(でもアグネスも好きなもの)、そしてアグネスの為だけに「お守り」として、二人の名前と子供達の名前を彫ったブレスレット。あいているところは何千人の孫達の名前のためにとってあるのだと。
マイケルったら・・・なんて心憎いプレゼントを(>_<)。
言葉にできない幸せをかみしめながらアグネスが歌います。なんとなく春風さんご自身の目にも光るものが…。

M18「誰かが私を求めてる」

「私は泣きながら笑って祝う。今日という日を」
「寂しくて逃げ出そうと・・・でも彼が・・・私を抱き締めた」

あなたと二人なら、なんて人生は生き生きと晴れやかなものかと、ダンスをする二人。舞台の上から一斉に色とりどりのリボンが下がります。一幕の結婚式の時のようです。そう、このシーンは結婚式と同じくらい大きな意味があるのです。離れかけていた二人の心が、今わかりあってより深く結ばれたのですから。お二人が淡々と大人のお芝居をされるので、見る度にどんどん好きになっていったシーンです。気のせいか、村井さんの目にも光るものがあったような…。

 

M19「リボンを巻こう」

部屋の中をかたづける二人。
「リボンを巻こう」「片付けよう」
「明日が来る、最高の明日が」
「二人を待っている」

この歌、あとかたづけをしながら未来に夢をはせる歌なのですが、とても意味深だと思います。歌詞の内容が前向きなのに、とても寂しそうに聞こえませんか?短調ではなく長調の歌にもかかわらず、不思議とこの歌を聞くと寂しくなるのです。

もしかしたら、今までの人生では物を出したり広げたりして散らかしていた彼らだったけれど、もうそろそろかたづけにはいる時期みたいな意味なのかなと思ったら、なんとなく腑に落ちました。悲しげなメロディーもそういうことだったのかも。もちろん幸せな未来は信じていいけれど、彼らはどんどん年をとっていきます。人生の最後のステージを迎える歌なのかもしれません。

 

「リボンを巻こう」のインストゥルメンタルの中、舞台の両端にドレッサーが現れ、上手に村井さん、下手に春風さんが座り、照明を落とした薄暗い中で、客席に向かってメイクをします。シワを書き、村井さんは口ひげを白いものに付け替え、眉に眉墨ならぬ白い染め粉をつけ、眼鏡をかけ、白髪のカツラをかぶり、観客の前でどんどん年老いていく二人。舞台中央に立ち、照明が明るく照らすと・・・そこにはさっきまでの面影はどこへやら、すっかり年をとって80才くらいになったマイケルとアグネスがいました。場内からはひときわ大きな拍手がおこります。

この「老人メイク」のシーンは秀逸だと思います。わざと観客にメイクをするところを見せて「芝居を作っています」と種明かしいるのに、芝居の流れを壊さない不思議な力があります(ブレヒトもびっくり?)。もしかしたら、「老い」とは厳粛なものだと観客は肌で感じているのかもしれません。だから皆、興味と畏敬の念をこめてこの「老いる」という厳粛な儀式を見つめているのでしょう。私は、彼らの約20年の歳月がこのシーンにつまっているのだとか、芝居でこれほどリアルなものを見せられるなんてとか、いろいろ考えさせられて切なくて泣けてきました。重いシーンです。

足腰の曲がったおばあちゃん、おじいちゃんの演技がうまい春風さんと村井さん。しゃべり方もすっかり老人してます。今日は引越しの日です。もう二人には広すぎると、長年住みなれた家を離れることにしたのです。

今度ここに住む若い夫婦をびっくりさせてやりたいと、例の「神は愛なり」のピンクのハート形の枕をベッドカバーの下に隠そうとするアグネスですが、マイケルはいやだと言ってやめさせようとします。「地下室にワインでも残ってないかしら」とマイケルを地下室に行かせて、その間に枕を隠すアグネス。その動きの素早さに思わず笑ってしまいます(^_^)。娘の結婚式の時の残りのワインのビンを見つけて戻ってきたマイケルは、今これを飲みたいと言いますが、アパートの守衛さんには第一印象をよくしておかないと、とアグネスは困惑します。

「かまうもんか、あの偉そうな男の鼻先でこう言ってやるよ。『よう、ハー、ハー』って」(と息をはきかける真似をするマイケル)。アグネスがじっとマイケルを見つめながら、観客に見えるように、客席側の手で静かに愛おしそうにマイケルの頬を撫でます。新婚の日にシャンペンをたくさん飲んだあと、息をかがせてとせがんだことを思いだしているのでしょう。なんかもう、たまりませんね…(>_<)。

ワインを飲むためにアグネスがコップを取りに行っている間、マイケルがハート形の枕を見つけてしまいます。
「あの若者にこんな真似をすることだけは許さん」
「結婚式の夜、この枕をベッドの上で見つけた時、私泣きそうになったわ」
「ああそうかい、僕もさ。その枕を見た時突然わかったんだ。女どもの世界にとっ捕まっちまったことが。君の背後から世界最大の組合が不気味に迫ってくるのさ」

なんとかアグネスを押しとどめるマイケル。女としてはアグネスの気持ちがとてもわかるのですが、男の人はあの枕や、あの枕を良しとする女性の気持ちをあまり好ましいと思わないようで。「世界最大の組合が・・」と言う村井さんの言い方や仕草が楽しいです(^_^)。

M20「この家」

長年住んだ家の思い出をたどり、ベッド手前の物入れの上に並んで座り二人でデュエット。
「結婚はよいもの。嵐が吹いた時もあったけれど、家には愛が満ちていた・・・」
そろそろハンカチでなく、タオルが欲しいあずなです。

荷物のつまったスーツケースがきちんとしまらないからと、二人で一緒にスーツケースに座って鍵をかけようと提案するマイケル。ところがアグネスがうまく鍵をかけられなかったので、もういっぺんやり直し。こんなことの一つ一つが、たまらなく愛おしいマイケルおじいちゃんとアグネスおばあちゃん。

やっと鍵がかかって、スーツケースに並んで座ってまた「この家」をデュエット。
そこへ、頼んでいた車が到着。マイケルが先に出ようとしたのをよいことに、アグネスがまたまた枕をベッドに隠します。それに気づきやれやれとなるマイケルですが、アグネスにとうとう根負けして枕をベッドに置き、なんとその隣に持っていこうとしたワインのビンを置いてベッドカバーをかけます。
よかったね、アグネス!優しいね、マイケル!

ラストの枕をめぐるバトルと折れるマイケル、しかもワインのおまけつき…このシーンは実は、この舞台の全てが詰まっているように思いました。意地の張り合い、でも最後はマイケルがわかってくれる。アグネスが想像する以上のものを返してくれる。
なんて素敵な夫婦なんでしょう。
あっぱれです!!

結婚式の時にしたように、マイケルがアグネスをお姫様だっこして、しずかにしっかりと歩いて部屋を出ていきます。そう、これは新しい旅立ちなのです。
終幕。

 

場内、嵐のような拍手!
カーテンコールで老人の姿でダンスを踊る村井さんと春風さんの晴れやかな表情。
素晴しい舞台でした!!

 

 

子供達が結婚して二人きりになった時、マイケルがアグネスにプレゼントした、心のこもったあの「お守り」・・・もしかしたら、名前が彫り切れないほどたくさん孫やひ孫が生まれたのかもしれませんね。孫やひ孫に囲まれて「この家」を歌う二人の姿が目に浮かんできます。

どうか、本当に末永くお幸せに。長生きしてね、マイケル、アグネス!!

 

 

これにてI do!終幕!!(02.6.29)

 

 

一幕へ