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画像掲載にあたりクリームインタナショナルの許諾を得ました
ミュージカル「I do! I do!」は『ファンタスティックス』のトム・ジョーンズ(台本)、ハーベイ・シュミット(音楽)のコンビによる美しく、コミカルで粋なミュージカル。ごく普通の夫婦の、どこの家庭にもある小さな事件を、出演者二人だけで歌い、踊り、エンターテイメントとして成立させた作品です。
初演は、1966年ガワー・チャンピオンの演出により上演され、メリー・マーティンとロバート・ブレストンが演じ、ブロードウェイ・ミュージカル界に新風を巻き起こしました。
日本では、1969年に越路吹雪・平幹二朗のコンビで初演、その後、何度か上演され、1982年に草笛光子・細川俊之版が二度上演されています。
今回の上演は、2002年から質の高い安定した演技で魅了する春風ひとみ・村井国夫のコンビ。春風は1996年に四国ツアーを中心に、村井は1990年にシアターV赤坂で上演していますが、演出家も相手役も異なります。
1982年、83年の細川・草笛版上演時の演出家は米国から招聘したウイリアム・モーリス氏でした。このときまだ学生だった山田和也氏が、パルコ劇場で上演された、この「I do!〜」を観て、将来ミュージカルの演出家になろうと決意したというエピソードは、時の流れとともに作品の上質さを証明しているようです。現在も、「I do!〜」を一度やりたいと念願しているミュージカル俳優やスタッフは大勢います。
夫婦の本質を描いているこの作品は、初演から30年以上経っても色あせることはありません。時代は移り変わっても、人間の本質は変わらないことを、この作品は教えてくれます。それが人々の心を捉え、感動を呼び起こすのでしょう。
物語は、アメリカのどこにでもある中流階級の生活を夫婦を中心に書いたものです。舞台は、結婚式のシーンから始まります。タイトルの「I do! I do!」は、新郎新婦が教会で牧師の前で言う誓いの言葉です。
1幕は、マイケルとアグネスの結婚式のシーンから始まります。そして、結婚初夜の初々しさ、出産の喜び、子供の成長、夫の浮気など様々な出来事を経て、中年にさしかかるところまで。
そして、2幕は、子供達の結婚が決まり、巣立っていった後、二人きりの生活に戻った老夫婦が、「結婚とはいいものだ」と歌い上げ、二人だけでは広すぎる家を後にして、小さな家に引っ越していきます。
全編を通して歌い上げられる、心に滲みるナンバーの数々、実力派二人の息のあったダンス。また、舞台上でメイクを変えながら、次第に年老いていく二人の姿など、見逃せないシーンが数多く繰り広げられていきます。
若い男女が結婚する。いろんな人から祝福を受けて、今日から二人きりの世界が始まる。誓いの言葉は「I DO!」
新婚初夜。本当に二人きりになると、新しい生活への不安、もう二度とあの青春時代に戻ることはできないという寂しさが襲ってくる。戸惑う二人。ベッドへ入ろうとすると、「愛は神の恵み」と書いた枕がひとつ。きっと母親からのプレゼントだと二人は感動する。そして、甘い新婚初夜が始まる。
そんな甘い生活も束の間。長男が生まれる。男はオロオロと心配し、女も落ち着いてみせるものの、内心は不安である。そして、誕生。新たな感動。子供を中心にした生活。
しかし、それも長女が生まれ、生活に追われるようになると、男の子供や妻への関心も薄れて行く。仕事盛りに、男盛り、すっかり調子づいていく男。一方、家事に追われ、夫からも相手にされなくなっていく女。おきまりの夫婦喧嘩。出ていこうとする女、でも結局は愛しあっている二人、無事元の鞘へ戻る。
時は過ぎて、子供も大きくなり、二人はまた自分達だけの生活に夢を託す。しかし、いざ子供が結婚して出ていくと、急に寂しさが二人を襲う。男にはまだ仕事が残っている。けれど、女には子育てが終わった今、何も残ってはいない。彼女は新しい恋に生きることを決心する。出ていこうとする彼女に男は、君が必要なんだ、君を愛していると改めて告白する。その言葉で彼女は再び二人で生きていくことを決める。
さて、二人きりの新しい生活が始まる。新しい住まいへ引っ越す二人。新しい住人へのプレゼントにと「愛は神の恵み」の枕を残していこうとする女。しかし、男はそれを持って行きたいと言う。枕を改めてトランクに詰め直して、二人は新しい生活へと旅立つ。
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あずなは村井・春風コンビしか見ていませんが、ラストが上記とは違います。
I do! は日本では69年の初演の越路吹雪・平幹二朗版から今までに、様々なプロダクション、様々な顔合わせで上演されています。ちなみに初演以後のキャストは、越路さんと細川俊之さん、細川さんと草笛光子さん、細川さんと久野綾希子さん、川平慈英さんと池田裕子さん、村井国夫さんと平みちさん、夏夕介さんと春風ひとみさん、そして川崎麻世さんと高嶺ふぶきさんという配役です。2002年の村井さんも春風さんも違う相手役の方とI do! をおやりになっています。
ここで見どころを語る前に、2002年にあずなが見た村井さんと春風さんお二人の経歴をご紹介。
村井国夫さんは「サウンドオブミュージック」や「シー・ラブス・ミー」などの東宝ミュージカルで、その演技も歌唱力も高く評価され、その集大成とも言える「レ・ミゼラブル」のジャベールでは、他の追随を許さない存在感と深みを演じきり、ミュージカル界になくてはならない存在となっています。ストレートでは「オセロー」のイアーゴーや「ハムレット」のクローディアス、「三人姉妹」のヴェルシーニン等、古典でも重厚で格調高い演技で観るものの心を捉え、「蜘蛛女のキス」では92年に芸術祭賞を受賞しています。また、テレビのバラエティーにも出演されてそのダンディーぶりでも名をはせていらっしゃいますので、ステキに年を重ねていく夫婦の物語をお洒落に、そして深く掘り下げて演じるのにこれほどぴったりの方はいません。
春風ひとみさんは、宝塚歌劇団月組時代から今日にいたるまで“迫真の演技”“見事な歌唱力”“キレのいい華やかなダンス”で演劇ファンを魅了し続けています。そのあふれる魅力で93年「一人ミュージカル-壁の中の妖精」で紀ノ国屋演劇賞・個人賞、同年「夢、クレムリンであなたと」で文化庁芸術祭賞、96年「私の下町-母の写真」で文化庁芸術祭賞大賞を受賞されました。
宝塚時代の「ミー&マイガール」マリア公爵夫人や、近作の「42ND
STREET」マギーでは、ちょっぴりお年を召した役柄もこなし、抜群のユーモアセンスと温かいまなざしで好評を博した春風さんです。一組の男女が出会い、夫婦となり長い時を経てゆく姿を、可憐に艶やかにそして愛情いっぱいに演じられるのにこれまたうってつけです。
初演のCDは舞台を知らなくても、聴くだけでその粋でおしゃれで楽しい世界に引きこんでしまうパワーがありましたが、2002年に実際初めてこの舞台を見て、派手さはなくてもその楽しさと深さにおいて、追随を許さない完成度に本当に驚かされました。心にしみるように伝わってくる夫婦の愛情、思いやり。普通の夫婦の人生50年を、自然に演じてみせる村井さんと春風さんの、計算され尽くされた高度な演技。
「普通」ということはまかり間違うと、平凡でつまらないものになってしまうということです。「普通」を演じるのがいかに大変なことか。読売新聞のインタビューによると、お稽古の時以外にも、村井さんは春風さんに「ダーリン」と呼んでもらっていたそうです。自然な夫婦の雰囲気を作るのに、そこまで努力されたお二人の情熱には頭が下がります。その甲斐あってか、二幕の中年以降のお二人のマイケルとアグネスは、かもし出す空気がなんとも言えない自然な柔らかさがあって、本当の夫婦に見えました。
そして村井さんのおしゃれでなんとも言えない男のカワイさは、「周知の事実」のシルクハットにステッキの小粋なステップや、「僕は妻を愛してる」のパジャマダンスによく現れていましたし、深みのある演技は、二幕で出ていこうとするアグネスを引き止めるところで、マイケルの愛情深さをきめ細やかに見せて下さいました。
春風さんの芯の強さと粋で明るいところは、「炎のアグネス」のかっこよくて激しくて女らしい面、「愛だけでは生きていけない」の力強さをしっかり打ち出していましたし、細やかな演技は「愛があふれる」や「女ってなに?」をはじめとして、同性の女性には心をとらえて放さない真実味を感じさせます。
娘が結婚するエピソードや、老夫婦になってからの二人は、是非年配のご夫婦に見ていただきたいシーンでもあります。また、2幕はじめの「去年の雪、いまいずこ」のあと、実はこれがやりたかったんだとマイケルがサックスを、アグネスがバイオリンをパジャマ姿で弾くシーンは、楽しさもさることながら生の楽器演奏も見どころの一つです。
どこをとっても見どころと言えるほどの濃いミュージカルに、これまたいい曲が揃っています。親しみやすく、楽しくそして美しいナンバーの数々。
川崎麻世版パンフで山田和也氏がこんなことを語っていらっしゃいました。
「『I do! I do!
』という作品には不思議な力があって、ひとたびその魔力の虜になると、その人は半ば永久的に『I
do! I do!
』に焦がれ続けることになるのです。舞台の仕事を続けていると、そんな『I
do!
・・・』熱に冒された人たちに出くわすことがよくあります」
「いつもは辛口の演劇論を戦わせている先輩の口から
・・・子供達が結婚したら、寝て暮らそう・・・
と、『I do! I do!
』のミュージカルナンバーがスラスラ出てきた時には、さすがに身が引きしまる思いでした」
多くの演劇関係者の心を捉えて離さないI do! は、本当に通好みの細やかな舞台なのでしょう。
村井さんも春風さんも山田和也さんもI
do!ファンだそうです。I do!
に愛着のある素敵な方々が作られるのですから、I do!
はこれからも素敵な舞台になるはずです。
是非できれば今後も、村井さん、春風さん、山田和也さんのコンビでI
do!が再演されることを心から願ってやみません。たとえキャストやスタッフが変わっても、I
do!がこれからも私達に感動を与え続けてくれることを切望します。そしてこのサイトをご覧下さった一人でも多くの方が興味を持って下さり、再演されたあかつきには劇場に足を運んで下さるといいなあと思います。(02.8.27)
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